コンベックス型超音波内視鏡(EUS)トレーニング法 ・描出のコツ:記事一覧
目次
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各パートの描出の解説(下行部操作)
下行部操作でトレイニーからよく頂く質問はシンプルに2つのみです。
①下行部にスコープが落とせない(内視鏡事故率も最多です)
②乳頭部で胆管と膵管がうまくだせない
それぞれ原因と対策を考えていきましょう。
下行部への挿入の解説
下行部は何件やっても人によって難しいことがあります。偶発症も下行部が穿孔も最多です。穿孔の原因はスコープの硬性部が長過ぎることによる操作の問題や、患者側の要因としては術後の癒着、さらに腫瘍により炎症で壁が脆弱となっていることがあげられます。術後症例、癌の症例はそもそも普通にストレッチするだけで穿孔する症例もあります。よって、下行部で挿入困難な時は、本当に挿入する必要があるのか考えることが重要です。
EUSは球部までしっかりみえていれば、膵頭部から尾部まで全領域がほぼ確認されています。そのため、下行部に挿入しなくても検査が充分に完遂できていることは多いです。
具体的には、進行膵癌で胃内や球部でEUS-FNAも終わっている症例であればいつでも検査を終了することは可能で、下行部へすすめる必要はないですよね。
下行部挿入が難しいなと思ったら、一度カメラを止めて深呼吸。本当に下行部操作が必要なのか、自問自答するか他のスタッフと議論してみましょう。
下行部への挿入方法
下行部への挿入は、上の図のようにコンベックススコープの硬性部が非常に長いという特徴を理解して実施する必要があります。
イメージとしてはとても長いフードをつけて挿入していると思ってカメラを進めてください。
そのように考えると、下行部へ挿入するような大きく角を曲がっていくような場合には内視鏡の視野だけですすめるのではなく、フードの長さも計算して曲がる必要があるとわかると思います。
繰り返しですが、コンベックススコープは視野と再先進部の不一致があります。先端はエコープローブですから胃カメラや大腸カメラのように内視鏡画面だけを信用していると痛い目にあいます。
下行部挿入のコツ :右アングル+右回転+アップで後壁を滑らせて落とす!
下行部へのコツはいつもより少しだけ早く右ターンすること。そして、球部後壁を右アングルで角を潰すようなイメージでフルで右アングルをかけていき、アップアングルをかけながら右回転していく、これでスコープを引くと下行部へと滑っていくはずです。後はスコープをゆっくりと引いてストレッチするだけで、push操作は必要ありません。
この時のストレッチ操作も愛護的にゆっくり引いてこないと、スコープの硬性部が長いために強い力がかかって穿孔する可能性があります。
下行部挿入のまとめ
挿入のポイントは①すごく長いフードをつけているイメージを常に持つことと、②内視鏡視野と最先進部の不一致を理解することです。
下行部へ挿入する操作は、本当に初学者にとって危険です。視野と最先進部の不一致が体にしみついて理解していない状況、スコープの形状のイメージが乏しいうちは、すぐにトレイニーと交替してあげることが大切です。
もし下行部で穿孔してしまうと、膵液や胆汁が腹腔内に垂れ流しになるのでかなり高度な胆汁性腹膜炎となります。このスコープであけた穴は巨大なので緊急手術をしなければ、しばしば致命的になることもあります。よって、下行部操作は施設として最大限の安全マージンをとり、ちょっとでも危ないと感じたらやめるというスタンスで行うのが重要であると思います。(エキスパートと変わっても落とせない場合は撤退、下行部へいれるのは二回までとしてそれ以上はしない、腫瘍が露出しているなら基本的にはカメラを進めないなど自分ルールを決めてもいいかもしれません)
下行部での胆管、膵管の見つけ方
さて次のポイントは乳頭部(胆管・膵管)の描出です。ここも初学者にとっては困難なことがありますが、ここが難しい理由は、
①目印となるメルクマールを探すのが難しい。
②胃内や球部のように脈管のつながりがない。
③そして、引いていくと抜けてしまい再挿入も結構難しいことがある。
といったことがあげられます。
乳頭部の描出方法 3パターン
①プローブタッチ法
乳頭を内視鏡画面でみつけてからプローブでタッチし、少し左回転すると、胆管はでます。胆管は基本的に乳頭より左回転すると出ます。それは、ERCPでの胆管挿管は乳頭を正面視して11時方向を狙うという胆管のイメージと一致しています。
ここでも何度かでてきていますが、内視鏡視野と最先進部の不一致を考える必要があります。内視鏡画面で乳頭にあてていると思っても実際はプローブ部分(最先進部)をあてないと胆管は見えないので、内視鏡画面であててから数センチ引くと胆管がでます。
でも、もっと簡単な方法があります。
②バルーンタッチ法です。
これが実は一番簡単で、乳頭部につけた先端バルーンを大きく膨らませて、膨らませたバルーンを内視鏡画面でみながら乳頭にあてる。バルーンの位置=プローブの先端の位置であるため、本当に簡単に乳頭部の胆管、膵管がでます。
このことが、コンベックスEUSでもっとも大事なポイントの理解(極意といってもいいかもしれません)に繋がります。
コンベックス型EUSの極意は、内視鏡的視野と最先進部の不一致を理解し、エコー画面=最先進部であるということを理解すること。
先端バルーンを大きく膨らませた時に、コンベックス型EUSスコープの操作において最も重要なことがわかります。
コンベックスEUSのプローブは、先端部の位置は普段は内視鏡の視野で見えていませんが、バルーンをふくらませることによって先端部の位置が初めて視認できます。
実際やってみてください。思っていた位置とは違うのではないでしょうか?
視野と先進部の不一致の感覚を理解することで初めて、内視鏡画面で壁にあたっていなくてもどの程度でスコープの先端(プローブ部分)が壁にぶつかるかがわかるので、このことを感覚的に理解できればEUS関連の穿孔は減ります。しかし、これはまだ極意ではありません。
感覚的にではなく、直接見て理解する方法があります。
スコープ最先進部が内視鏡の視野と不一致があるならば、エコープローブで見えている画面を重視すれば良いのです。スコープ最先進部=エコープローブ=エコー画面ということを理解し、安全面や描出で役立てることがコンベックスEUSの極意です。
コンベックス型EUSの極意は、内視鏡的視野と最先進部の不一致を理解し、エコー画面=最先進部であるということを理解すること。
これを応用したのがfollow the space techniqueなんですが、後数ページかかるのでやめときます。
だいぶ脱線しましたが、下行部の乳頭部観察の続きです。
③乳頭が見えない場合の胆管・膵管描出:乳頭部の周りの脈管を略式概念図で理解する
乳頭が見えない時もあります。そのような場合は、膵鉤部や、SMV・SMA、Aortaの位置関係を確認しながら乳頭部の胆管・膵管を出す方法があります。
乳頭が視認できないときの胆管・膵管描出法を3stepで解説します。
Step1:下行部の略式概念図を見て書いて覚える。
膵臓の乳頭部は下図のようにSMAとAortaに挟まれています。この位置関係とスコープの回転方向でどの脈管がでるかどうかを略式概念図(下行部)でまず見て、書いて覚えましょう。
Step2:下行部ストレッチしたら右回転していき膵鉤部を描出する
膵鉤部は下行部へとスコープを進めた後に、ある程度ストレッチして右回転していくとエコー画面右側から白い膵鉤部がでてきます(20カット⑲)。この鉤部がきれいにでるように圧着を調整しながらスコープを引いていき画面内の1/4~半分くらいを膵鉤部が占めるくらいまで引きます。
Step3:膵鉤部から左回転していく
膵鉤部が充分に描出できたら少しずつ左回転していくとSMV,SMAが並走しているのが見えます。その2本よりもさらに左回転すると黒い乳頭部(20カット⑳)が見えてきます。鉤部よりも頭部は黒いことが多いため、乳頭部の胆管と膵管を探す時は膵実質が黒くなるところを探すと良いです。もっと左回転すると大動脈がでますがここまで回すと、回しすぎでカメラも抜けやすくなりますので乳頭まで右回転して戻りましょう。
乳頭が見えない時の下行部の描出法3stepは、
Step1:下行部略式概念図を見て書いて覚える
Step2:下行部へ挿入後ストレッチして右回転して膵鉤部を出す
Step3:膵鉤部から左回転していく
となります。
詳細は動画で解説していますので御確認ください。
④それでも出せない場合
対策1:サイドアングルをニュートラルへ 下行部に落とす際にかけたサイドアングルがニュートラルに戻っていないことがあります。サイドアングルがかかっているとスコープがきれいに回転しません。ニュートラルへ戻してください。
対策2:脱気水をいれる 空気が邪魔でみえない、憩室内・傍憩室乳頭の時などは、脱気水をいれると見えることがあります。
まとめ
下行部操作は、もっとも穿孔のリスクが高いため充分に安全マージンをとって操作していく必要があります。時には検査が完結しているなら検査を中断する勇気も必要です。下行部での乳頭の胆管・膵管描出のコツはサイドアングルをニュートラルにして、①プローブと内視鏡画面の位置のずれを理解して乳頭にプローブを当てることですが②バルーンを使用すると簡単に乳頭にプローブをあてることができます。③乳頭が見えない場合は上の動画のように左右の回転でどの脈管がみえるかということを考えて描出すれば乳頭部の胆管・膵管は必ずでます。