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【保存版】EUS-CPN(EUS下腹腔神経叢ブロック)の実際と処置上の注意点

Takamitsu
shun先生、あの患者さん麻薬の副作用で眠気もあってつらそうですが、なにかしてあげられませんかね?
しゅん
そうだね、麻薬の増量もつらそうだしEUS-CPNはどうかな?

 

EUS-CPN (EUS下腹腔神経叢ブロック)とは?

しゅん
今日はEUS-CPN(EUSガイド下腹腔神経叢ブロック:celiac plexus neurolysisを解説します!)

まず、EUS-CPN(腹腔神経叢ブロック:celiac plexus neurolysis)というものを語る前に腹腔神経叢の話をせねばなりません。

腹腔神経叢というのは大動脈前面にある神経のかたまりで、

 

腫瘍などがこの領域にあると痛みが発生します。
癌による腹痛がある患者さんに腹腔神経叢を
ブロック(アルコールなどで神経を焼く)することで痛みが緩和されます。
また、腹腔神経叢(内臓神経)は交感神経であり、ブロックすると副交感神経が優位となることから
内臓の血管が拡張し血圧低下や下痢を生じるが、麻薬の副作用である便秘を解消し食欲も改善することが多い。

EUS-CPNの適応は、

①麻薬による副作用(吐き気、便秘、眠気)が強い方が良い適応となります。
もちろん麻薬だけで十分効果があるという方には必要ありません。

②NSAIDs導入後、麻薬導入前の疼痛コントロール
近年の論文では、麻薬導入前に導入すると、最終的なモルヒネの量が減らせるという報告もあり、
早期導入も一つですね。

EUS-CPNの禁忌は、

アルコール、キシロカイン(使わない場合もある)を神経に作用させるため、
それらの薬剤に対するアレルギーがある方にはできません。

(お酒が弱い方などEUS-CPNの後に顔が真っ赤になる方も多いです。)

EUS-CPNの有害事象は、

一過性疼痛増強(0~36%)、一過性低血圧(0~ 33%)、下痢(0~23.4%)、酩酊(0~8.5%)などがあります。
重篤な偶発症としては非常に頻度は低いものの、血栓症、対麻痺(0.1〜0.15%)、虚血、膿瘍形成があります。

【注意事項】
海外の文献では血栓による死亡例もあります。また下肢麻痺は頻度は非常に低いものの昔から報告されている偶発症であり、
機序としては、根動脈へのエタノール注入による前脊髄動脈症候群と考えられています。
頻度はEUSでは不明ですが、報告はあります。記載のものは背側からのアプローチの成績で、時に不可逆性の麻痺が発生することもあり
患者さんへの説明ではしっかり伝えること、EUSでは針を深部に進めすぎないように注意する必要があります。

EUS-CPNの準備物品

準備するものは、

①無水エタノール(99.9%):アルコールで神経を破壊します

神経破壊薬として一般的にCPNで使います。フェノールを使う報告もあります。エタノールは99.9%と高濃度であることから
目などに飛ぶと非常に危険です。ゴーグルを用意したり、ロック付きシリンジを用意して
注入中に薬液がかからないように工夫することが大切です。使用量は、10−20ml程度です。

②1%キシロカイン(50mg/5ml):エタノールの疼痛を緩和します

アルコールの神経破壊による疼痛を緩和する目的で使用されます。
はじめに2−3ml程度いれてから、次にアルコールを注入します。

③非イオン性造影剤(ビジパークなど):単純CTの効果判定につかいます。

これは効果判定のためにいれます。EUSーCPN後に単純CTを撮影すると、
造影剤の広がりが画像で確認できるので効果判定に有用なんです。

基本は、上記3つです。当院では3方活栓を使用し、
エタノール9ml(ロック用シリンジ)+非イオン性造影剤1ml(原液)をまぜたシリンジx1本
キシロカイン5mlの青シリンジx1本をひとつの3活にセットし、合計2セットを術前に合体させて用意しています。

④穿刺針

基本は22Gを使用します。25Gをだと硬すぎてなかなか入りません。

⑤その他の物品

ゴーグル、99.9%のエタノールが目に入ると失明するので、術者、介助者がゴーグルをつけることは必須です。
周囲の安全確認はしっかりしてください。

 

EUS-CPNの手技について

①EUS-CPN(central method:中心法)

まずはスタンダードなCPN(central method)から解説します。


Minaga et al, Alleviating Pancreatic Cancer-Associated Pain Using Endoscopic Ultrasound-Guided Neurolysis Cancers 2018から引用
①EUSでAortaの分岐を描出して腹腔動脈の直上を穿刺します。
②逆血がないことを確認して
③キシロカインを3ml程度いれます。
④その後無水エタノール+造影剤をまぜた薬液を10−20ml大動脈直上にいれます。
⑤帰室時に単純CTを撮影して薬液が左右に入っていることを確認して終了。

術後の評価

治療前後でVAS(visual analog scale)や、NRS(Numeric rating scale)で疼痛緩和が得られたか評価しましょう。
術後に一過性の疼痛増悪があることもあるので痛みの改善が乏しい方は2.3日してから評価してもいいと思います(全然きかない人もいますが、、、)。

CTなどで、薬液の広がりを評価することも大切です。

 

EUS-CPN (Bilateral method:両側法)

Bilateral methodは、先程のCentral methodが、腹腔動脈の直上を穿刺するのに対して、
腹腔動脈の左右を穿刺してエタノールを注入する手技です。Central methodとくらべて、
有意に有効率が高いする報告もあります。Central method(77.5%) vs Bilateral(50.7%)

Bilateral法の注意点

周囲の血管の穿刺リスクや、左副腎の誤穿刺が危険です。
大動脈の腹腔動脈分岐がみえている位置で右トルクすると左副腎がみえます。
左副腎をしっかり認識して避けることが大切です。

そして大動脈の左側か右側かの判断もこの副腎を確認すると確実です。

また左側臥位で処置をしていると、重力の影響で体の右側には入りにくいので
左トルクをかけて右側を左側より先行してしっかり目にいれることも大切です。
(たまに体の半分だけ痛みがとれたという方もいます…)

 

EUS-CGN (celiac ganglia neurolysis:腹腔神経節融解術)

さて次に腹腔神経節ブロックの解説です。腹腔神経節とは、神経が結節状の形態をとったものでEUS-CGNでは
下の図(b)のような芋虫あるいは円形の低エコーとして腹腔動脈の直上に描出できることがあります。

Minaga et al, Alleviating Pancreatic Cancer-Associated Pain Using Endoscopic Ultrasound-Guided Neurolysis Cancers 2018から引用

とお話しますと、

Takamitsu
(リンパ節にしか見えん)

というご返事をいただくことも多いです。

実際のところリンパ節との鑑別は100%は難しいですが、
既報では腹腔動脈周囲に存在する芋虫様の形態、小リンパのようにもみえる低エコーが
つらなってあることがあります。FNAをすることで証明したという報告もあります。
この、神経節の描出率に関しては62.5〜88%と様々ですが、

EUS-CPN と EUS-CGN の前向きなランダム化比較試験では、
腹腔神経節の描出率は 88% ,有効率は EUS−CPN 45.5% に対して EUS−CGN 73.5%との報告もあります。
Doi S, Yasuda I, Kawakami H, et al. Endoscopic ultrasound-guided celiac ganglia neurolysis vs. celiac plexus neurolysis: a randomized multicenter trial. Endoscopy 2013.

神経の塊をエタノールで注入しブロックすることは理にかなった治療で、この試験の結果もそれを反映しているのでしょうね。

EUS-CGNの実際

①腹腔神経節を同定する
②22G針で神経節を穿刺する
③エタノールを神経節がみえなくなるまで1−2ml注入する。
④図Cのように穿刺してエタノールをいれると白くなるのでそこで終了。

まとめ

EUSーCPNは比較簡単な手技で患者様への利益も大きな手技ですが、時に大きな偶発症をおこすことがあります。

腹腔神経叢ブロック(1500点)としては保険適応のある手技ですが、EUS下に関しては特に規定されていないため注意が必要です。
まず施設内の臨床倫理員会や安全委員会でEUS-CPNという手技の承認をうけることが重要となります。

点数も安く、どれだけ安い針を使っても、手技としては、赤字です。

そして、重大な偶発症のリスクをきちんと説明しておくことが大切です。
軽い気持ちでこの処置を行って不可逆の下肢麻痺が起こったという事例もあります。

機序を考慮するとあまり多量のエタノールをいれないことと、穿刺針を深くには刺さないことが
ひとつのポイントになるかもしれません。

 

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